心理学的裏付け

いつおかの体験と、心理学的な裏付け

誰にも相談できない悩みを抱え混み、どうしようもなく辛い時。涙が止まらないくらい悲しい時。あるいは、日常のささやかな幸せや頑張りをそっと誰かに見てもらいたい時。

いつでもおかえりは、誰がどんな気持ちを吐き出しても決して否定されずに、その気持ちを受け止めてもらえる場所です。
こうした体験の設計と、それを裏付けるエビデンスや研究を紹介していきます。

いつおかでは、こうした行為を「よしよし」と呼びます。

いつおかのコア行為: 「よしよし」

いつおかは、サービスとして「よしよし」行為を奨励します。

「よしよし」とは「1. 共感に基づく、2. 温かい働きかけ」を指します。

アプリ内では具体的に、下記のような体験ができます

  • 繋がりすぎない「部屋」ごとの投稿
    • いつでもおかえりは「部屋」というものを基本的な構成単位としております。
      部屋への参加や閲覧などを自分の意思でコントロールできます。
      そのため、見知らぬ人から誹謗中傷を受けることや不特定多数に晒されることはありません。
      また、人の目が気になるSNSでは発信しにくい、センシティブな内容を含めたコミュニケーションが可能です。
  • あなたの気持ちをそっと包み込んでくれる「リアクションスタンプ
    • 投稿には、種類豊富なやさしいリアクションスタンプを指先一つで送信できます。
      素直な気持ちを吐き出した投稿に「うんうん」「だよねだよね」といった温かいスタンプが押され、自分の感情を誰かに受け止めてもらえます。
      「誰かに聞いてほしい、でも身近な人には話しづらい」そんな時、顔も名前も知らない誰かがそっと寄り添ってくれることで、「一人じゃない」ことを実感できます。
  • いつおかの「よしよし」は一般的な「共感」にとどまりません。
    • 「よしよし」は相手の感情に添いながらも、その共感をただ示すのでなく、何かしらの反応を含みます。
      • 例:
        Aさん: 辛かった
        → Bさん「うんうん」「おつかれ」(リアクションスタンプ)
        この意味では social support に近いものです。

ここで、いつおかの捉える「共感」像と、共感および温かい働きかけについてのエビデンスを一部提示します。

いつおかの捉える「共感」像

  • いつおかでは、共感を次のように定義します。
    • 共感する側が、共感される側の感情・思考を理解し、感じ、共有すること。
      ただし、その思考・感情を自分のものでないと認識していること。
    • 共感は体験的な過程でもあるため、最低限に言語化できる範囲で定義しております。
    • 定義の出典
      • 共感の定義は、共感という行為の困難であり、長年にわたり議論が紛糾しています。
      • 30 年間にかけて 53 も存在する「共感の定義」についてのレビュー論文のレビュー結果として、ほとんどの研究で上記の4要素が定義に含まれていました。
        • Håkansson Eklund, J., & Summer Meranius, M. (2021). Toward a consensus on the nature of empathy: A review of reviews. Patient Education and Counseling104(2), 300–307. https://doi.org/10.1016/j.pec.2020.08.022
  • (補足) 共感の定義づけにおいては、神経科学でも研究が盛んとなっています。
    • ここ20年においては、認知的共感(cf. 視点取得、心の理論)と、感情的共感という2区分で分割することが提案されていました。
      • しかし脳の活動を観察するに、両者が独立的な過程とみなすのは難しいとみなされています。
    • まだまだ研究の進むところであります。
      • 例えば、共感とは「相手への関心の度合い」に依存して変化するモジュールと捉え方も生じております。
        • Levy, Jonathan, and Oren Bader. 2020. “Graded Empathy: A Neuro-Phenomenological Hypothesis.” Frontiers in Psychiatry 11:554848. doi: 10.3389/fpsyt.2020.554848.
      • その他にも、5Eアプローチ(”E”は共感の身体化、埋め込み、行為化、感情化、拡張的視点)も提唱されています。
        これは、モバイル脳・身体イメージング(MoBi)を使い、自然な文脈と相互作用的の考慮にも対応するものとして、提案されています。
        • 原語: embodied, embedded, enacted, emotional, and extended perspectives of empathy
          • Troncoso, A., Soto, V., Gomila, A., & Martínez-Pernía, D. (2023). Moving beyond the lab: Investigating empathy through the Empirical 5E approach. Frontiers in Psychology14, 1119469. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1119469

よしよし (= 共感に基づく働きかけ) の効果

「よしよし」について、多数の研究で精神面への良い効果が認められています。

  1. 専門的な精神療法・心理療法での共感の効果
    • 治療者が適切に共感できているか否かが、治療効果に関わると報告されています。
      • さまざまな研究の総括として、治療の共感の成否が、治療効果に中程度に関わる (r = 0.28)として報告されています。これは治療結果の分散の 9% に相当します。
      • Elliott, R., Bohart, A. C., Watson, J. C., & Murphy, D. (2018). Therapist empathy and client outcome: An updated meta-analysis. Psychotherapy55(4), 399–410. https://doi.org/10.1037/pst0000175
  2. より日常に近い文脈: 抑うつ・不安への、共感的な行動の効果
  • social support は、抑うつ・不安の抑制効果があると認められています。
    • social support が一般の人々における抑うつと不安の症状に及ぼす影響を調べた縦断研究群 (2015~2021 刊行) をまとめたところ、有効な研究のうちの 83%が、social support の抑うつ・不安の抑制に寄与を支持しました。
      • Wickramaratne, P. J., Yangchen, T., Lepow, L., Patra, B. G., Glicksburg, B., Talati, A., Adekkanattu, P., Ryu, E., Biernacka, J. M., Charney, A., Mann, J. J., Pathak, J., Olfson, M., & Weissman, M. M. (2022). Social connectedness as a determinant of mental health: A scoping review. PLOS ONE17(10), e0275004. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0275004
  1. 共感的な傾向と幸福度
    • Grühnら(2008)は、(自己回答で) 共感性が高い人ほど、生活への満足度が高く、ポジティブな感情が多く、ネガティブな感情が少なく、抑うつ症状が少ないことを報告しました
      研究者たちは、共感性が高い人は他者との肯定的なつながりに関心が高く、社会的相互作用を有意義で肯定的なものだと認識しやすいと論じており、それがこうした人々に幸福感や肯定的感情をもたらす可能性があるとしています。
      • Grühn, D., Rebucal, K., Diehl, M., Lumley, M., & Labouvie-Vief, G. (2008). Empathy across the adult lifespan: Longitudinal and experience-sampling findings. Emotion8(6), 753–765. https://doi.org/10.1037/a0014123

「よしよし」の連鎖・循環

「吐き出した気持ちを受け止めてもらう」体験は、一方通行ではありません。

  • 自分の気持ちを受け止めてもらえた経験をすると、自分と同じような気持ちを抱えた人や、近しい興味関心を抱く人の投稿に、今度は自分がリアクションスタンプを押したい気持ちが自然と芽生えます。
  • こうして「気持ちを受け止める」役割は循環するようにアプリユーザーに広まっていき、誰もが「吐き出した気持ちを受け止めてもらう」「誰かの気持ちを受け止める」の両方を自然と担うようになります。

心理学的な裏付け

  • 感謝の念の生起は、互恵的な行動を促す傾向にあることが多くの研究で報告されています。
    • 感謝の念と向社会的な行動との間の相関は、有意に中程度以上の効果量として報告されています (r=0.34). とりわけ行動に対しての感謝の念については、より強固な相関があるとされています。(r=0.42).
      • Ma, L. K., Tunney, R. J., & Ferguson, E. (2017). Does gratitude enhance prosociality?: A meta-analytic review. Psychological Bulletin143(6), 601–635. https://doi.org/10.1037/bul0000103
    • いつおかで辛い時に「よしよし」を受けて、ありがたいと思うことで、その
  • オンライン上でも、共感的な行動が伝染することが示唆されています。
    • ある研究は、オンラインのメンタルヘルスコミュニティにおけるソーシャルサポートや共感についての精神的影響を分析しました。
      • ソーシャルサポート(共感的なコメント)を受けたグループ対受けていないグループで比較をしたところ、初めの投稿でソーシャルサポートを受けたユーザーは、他のユーザーに提供する傾向に、またより共感度の高いコミュニケーションをする傾向にありました。
        • Chen Y, Xu Y. Exploring the Effect of Social Support and Empathy on User Engagement in Online Mental Health Communities. Int J Environ Res Public Health. 2021 Jun 26;18(13):6855. doi: 10.3390/ijerph18136855. PMID: 34206719; PMCID: PMC8296998.